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no.9「はっきりさせる、はっきり伝える」

 少しばかり長く教育に携わっていることと人的資源管理や産業・組織心理学を学ぶようになったことから、職場の問題(愚痴含む)を聞く機会が増えた。

 職場問題の多くは上司の方ならスタッフの問題が多いし、スタッフの方なら上司の問題が多く、困った同僚についての相談はそれよりも少ない(多くのスタッフが「同僚のことだから、上司が何とかするだろう」と思っているのかもしれない)。そして、上司と部下の関係について考えることは、教育にも共通することがあり、学生と教員の関係においても役立つことが多い。

 さて、今回は職場で何か問題が起こったときのヒントについて書こうと思う。

昨年読んだ本に『あなたが上司から求められているシンプルな50のこと』と『あなたが部下から求められているシリアスな50のこと』(濱田秀彦,実務教育出版)という本がある。印象的だったのは最初の本の「はじめに」で、上司と部下の意識のギャップは年々広がっているが、その理由は上司が部下に期待していることを伝えていないからという内容の記述であった。私自身、これまで長く働いてきたけれど、上司にはっきり何を期待されているか伝えられた経験は少なく、自分で求められていることを推察して動いてきたように思うし、周囲の人に聞いても同様であったから、余計に印象に残ったかもしれない。みなさんはどうだろう?上司から期待されていることを伝えられた経験があるだろうか?

 そして、この2冊を読んで、思い出した本がある。それは『この世の中を動かす暗黙のルール~人づきあいが苦手な人のための物語』(岡田尊司,幻冬舎)である。人づきあいの苦手な若者がある老人と知り合い、一つずつルールを授かって、社会的復帰していく物語なのであるが、ルールの一つに、自分が求めているものを、はっきりさせないと、求めているものは手に入らない。自分の求めているものが曖昧だと、みんなが混乱する。自分の求めているものを、はっきりさせることが、結局、みんなの幸せにつながる、というのがある。これをきっかけに、若者は言い出せなかった仕事を辞めたいということを、一緒に仕事をしている仲間に伝え、仲間は最初に渋ったものの、結局、仲間は求人を出して、継続し、若者も自分のやりたい方向へ進んでいく。

そして、この2冊(3冊)がつながって、職場で何か問題が起こったとき、まず、何が問題なのかをはっきりさせること、そして、それをはっきりと伝えることが必要であると考えるに至った。

例えば、上司の立場で、職場で思ったように反応してくれない部下がいたとき、よくよく考えてみると、部下の職務自体はきちんと遂行できている、といったようなことがある。この場合、問題は「部下が自分の思ったように反応してくれないことに、自分がイライラしている」ということであって、「思ったように反応しない部下」ではない。ここに気づいて問題を明らかにできないと、「どうしてわからないんだ!」とますます苛立ったり、部下は何がいけないのか、どうすれば良いのかわからないまま「何がいけないんだろう」と思い悩んだりして、さらに動けなくなってしまうという悪循環に陥ることになる。

そして、はっきり伝えることである。この場合は「自分の思ったように反応しないことにイライラしている自分」が問題なのであるから、伝える前にどう変わってほしいかを明らかにする必要がある。つまり、自分が部下に何を求めているかは、「自分の思ったように」ということだけで、具体性がない。ここで言う具体性とは、どうなってほしいということだけでなく、どうすればそれができるというプランも含まれている。

では、普段、部下に対して何か変わってほしいと思ったとき、ここまではっきりさせ(具体的にし)、明確に伝えているだろうか。同じ専門職だからわかるだろうとか、状況を考えれば(自分が言ったように行動して)当然だろう、というような思い込みはしていないだろうか。

私にも苦い経験があり、例えば、学生指導において前回の指導で思ったような変化が見られなかったときに、話をした後「もう少し考えてみようか」と口にすることがある。しかし、次の指導において、やっぱり学生が思ったような変化が見られなかったり、せっかく学生が考えて来ていても、本筋からそれていたり…といったことがある。これは、私が「もう少し」を具体的にし、それをするためのプランがあるかどうかを学生に確認したり、呈示しなかったことが原因である。さらに、その原因には「〇〇になるために来ているんだから、努力して当然」「そこまで言わなくても自分で考えるのが当然」などの思い込みが潜んでいることがある。これでは、一向に解決しない問題に、私も学生も疲弊していくだけで、何の解決にもならない。

以上のことから、職場問題でうまくいかないなぁとか、何かひっかかるなぁと感じた時、何が問題なかをはっきりさせること、そして、それをはっきり伝えるということが大切ではないかと考える。もちろん、他にも問題解決の方法はあると思うが、「何でわからないだろう」とイライラするよりも、あるいは、言って気まずくなるから言わないまま我慢を続けるよりも、精神的にはずっと良い。特に、職場ではその問題が解決しないことによって、当事者同士だけでなく、周囲のスタッフがそれに振り回されることが多々あるため、良くない職場の雰囲気が作られてしまう前に、できるだけ早く解決するに限る。

『はっきりさせる、はっきり伝える』が、みなさんの職場問題の解決のヒントになれば幸いである。

2014.3.4 Y.I

 

補足;「はっきり伝える」と書いたが、もちろん、言いにくい内容もあるし、言い方や相手との関係性などいろいろ気をつけないと問題が大きくなってしまう可能性もあるので、伝え方の問題はあるけれど、それはまた別の機会に。