コメディカル組織運営研究会
事務局
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我々が患者・利用者に提供する医療行為は、エビデンスに基づいた一定の水準を保証しなければならない。その努力は職能団体による講習会や所属組織の研修会、自己学習によって賄われるが、臨床ではガイドラインに載っていない事柄について判断し、対応する場面も非常に多い。判断の材料となるスタッフの知識は、経験年数、経験の範囲(領域)などによりばらつきがある。
しかしながら、昨今の医療情勢の急激な変化、療法士数の増加による低年齢化、需給関係における転職、結婚・出産・介護・バーンアウトによる離職など、過去の経験を継承する事が難しい現実がある。そして、組織のマネジメントにおいても管理職者が経験知を十分に持っているとは限らない。
経験知(DEEP SMARTS:暗黙知)とはそもそも何か?「〈新装版〉「経験知」を伝える技術:ドロシー・レナード (著), ウォルター・スワップ (著), 池村 千秋 (翻訳)」では以下のように定義している。
経験知とは、その人の直接の経験を土台とし、暗黙の知識に基づく洞察の源となり、その人の個人的信念と社会的影響によって形づくられる強力な専門知識で、数ある知識の中で最も深い智恵。(中略)その能力は正式な教育だけでは身につかないが、計画的に育むことはできるし、献身的に努力すれば他人に移転したり再創造したりすることもできる。
本書は、各章ごとの要点がまとまっているため、ポイントは理解しやすい。しかし著者の豊富な調査内容を、数多くの事例として提示している点に関しては十分に読み込む必要がある。経験知をDEEPに理解するにはじっくり読んで頂きたい。
特に7・8章では経験知の具体的な移転方法について触れており、臨床現場に応用することを想像しやすい。どのような「仕組み」で経験知を継承していくのか、言葉に出来ないからこそ非常に興味深く面白い分野であり、組織内教育を考える上では必要不可欠の内容である。
標準化された知識を基に安全・確実な医療を患者に提供する事を前提として、ガイドラインに載っていない知識、論文化されていない知識、言語化が難しく他職種の理解が得られにくい知識、そんな経験知を伝える事・得る事が実は仕事の楽しさや、やりがいを支えているのではないかと感じる今日。情報が氾濫し、ともすると効率性が善であると錯覚しがちだが、経験知の移転には時間がかかる事を認め、継承の重要性を認識する事がいきいきと働き続けられる職場の構築には必要だろう。
H.M