コメディカル組織運営研究会
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レジリエンスエンジニアリングとは,2006年にエリックホルナゲルらが提唱された考えである.「レジリエンス」とは,「しなやかで折れにくい」といった意味があり,様々な環境変化があろうとも,いかにすればシステムを安定して機能させることができるという意味である.また「エンジニアリング」とは,日本語の「工学」から連想される狭い意味ではなく,「創ること」,「工夫すること」というニュアンスを含んでいる.
今までの安全であるということは,「事故が限りなく少ない」,「有害事象が少ない」と,一定期間を振り返った結果をもとにイメージされてきた.事故が発生すれば,その発生過程を遡及的に調査し,原因を明らかにして対策を講じれば,それだけで事故が減少すると信じてきたところがある.このような,従来から我々が受け入れてきた安全への認識を「レジリエンスエンジニアリング」ではSafety-Ⅰと呼んでいる。
Safety-Ⅰでも医療事故を減らすることは出来ているものの,未だに同じようなインシデント・アクシデント報告が後を絶たない状況である.原因の1つとして,医療という社会工学システムが複合系システムであることにある.複合系システムである医療は,不確実性が最大の特徴である.挙動を予測できない複合系システムである医療においては,様々な想定外の事象が当たり前のように発生する.しかし,想定外のことが頻発しても,有害事象が頻発されることはなく,物事は正しい方向に向かっている.それは,何かが悪い方に向かおうとしているとき,医療チームの誰かがそれを早期に検知し,状況が深刻化する前に介入し修正しているからである.その修正行為は,安全を担保するために必要な調整を意味するものであり,この調整力が物事を正しい方向に向かわせている.よって,事故や有害事象のみを追いかけるのではなく,医療の大半である良好な転帰に至ったケースにどんな正しい方向に向かわせる調整力が作用したのかを学ぶべきであると言われるようになった.「レジリエンスエンジニアリング」では、このように物事を正しい方向に向かわせることを保証する状況をSafety-Ⅱと呼んでいる.
Safety-Ⅱの具体的行動として,①変動を予見する,②予見に基づく監視とモニタリング,③変動の早期発見と迅速な対応,④事後の反省と言われているが,私はヒヤリハットレベル(レベル0事例)レポートを多く報告する行動を推進したい.何故ならば,レベル0事例こそ正しい行動や調整力が作用したことにより防ぐことが出来た事例だからである.これからは,インシデントが発生したからレポートを記載する(もしかしたら怒られるかもしれないので隠蔽している方もいるかもしれないが…)のではなく,自身が正しいことをしたことにより未然に防ぐことが出来た事例を報告することが安全の考えと認識し,1事例でも多くのレベル0事例を報告されるような組織文化を醸成していただきたいと思う.
参考文献
芳賀繁 「レジリエンスエンジニアリング インシデントの再発予防から先取り型安全マネジメントへ」:医療の質・安全学会誌 7(3),209-211, 2012
N.K
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