コメディカル組織運営研究会
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最近、ある介護施設の経営者の方とお話させていただく機会がありました。その介護施設は、敷地内に駄菓子屋やカフェを併設したり、利用者が世話をされる存在としてではなく、利用者の得意なことを生かして、役に立つ存在として地域資源になってもらったりと、全国的にも先進的な取り組みをされています。
介護スタッフに関しても、「○時に入浴、○時に食事、○時におやつといったルーチンワークをさせるから、アホらしくなって離職率が高くなる」と言い、「どうすれば、利用者が人の役に立つ存在になることができるのか、考えさせるようなケアをすれば、離職はしなくなる」。「各スタッフに思い切った権限を与え、それぞれが考える環境をどうすれば整えることができるのかを考えるのが、経営者の仕事」と仰っていました。
スタッフ教育に関して、「新入職の方には、どのような教育をされているのですか?」という質問をしたところ、「僕がスタッフに言っているのは2つだけ。『自立支援をしてください』ということと『自分がされたくないことは、利用者にはしないこと』。教育ってこれだけだよ」とのことでした。
「逆にリハビリの専門職の人なんかは、常識にとらわれているから、うちの施設は合わないんじゃない?」とちょっと耳に痛いお話をされて、その食事会はお開きになりました。
経営学のなかでも、リーダーシップ論は長く研究され、日本でも人気がある分野です。そのなかでも、近年注目されている理論が、ニューヨーク州立大学のゲイリー・ユクルらが打ち出している「シェアド・リーダーシップ」です。
従来のリーダーシップ理論は、「グループにおける特定の一人がリーダーシップを執る」という前提でしたが、シェアド・リーダーシップは「グループの複数の人間、特には全員がリーダーシップを執ることが重要」と考えます。
「リーダー→フォロワー」という垂直的な関係性ではなく、それぞれのメンバーが時にリーダーのようになり、他のメンバーに影響を与え合うという水平関係のリーダーシップになります。
「やらせる→やらされる」という関係では、グループを「自分事」として考えることは難しいですが、シェアド・リーダーシップのもとでは、グループを「自分事」と考えるようになるというような、効果があるようです。
実証研究でも、「従来型の垂直的リーダーシップよりもシェアド・リーダーシップの方がチーム成果を高める」という結果が多く示されているようです。特に複雑なタスクを遂行するチームにおいてこの傾向は強くなると言われています。
私がお話を伺った社長の介護施設は、スタッフそれぞれに考えさせ、全員がリーダーシップを発揮させる、「シェアド・リーダーシップ」になっているのかもしれません。経営者は大まかなビジョンを示し、後は現場に権限を委譲することが、介護現場のような複雑なタスクを遂行するチームには必要なことなのかもしれません。
n.k
参考文献
石川淳 『シェアド・リーダーシップ チーム全員の影響力が職場を強くする』 中央経済社 2016
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