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no.25「リハビリテーション従事者の離職要因-組織コミットメントの観点から-」

現在、私がビジネススクールに通っていることは、コラムでお伝えしました。先日、人的資源管理(ヒューマンリソースマネジメント)の授業において、最終レポートを提出しました。テーマは「リハビリ職の離職」。離職を防止する因子としては、キャリア形成支援,教育体制の整備,福利厚生の充実,良好な人間関係,職場の管理体制などが先行文献から推察されました。あまり散見しない報告ですので、ここに載せさせて頂きます。どうぞ参考・活用下さい。

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Ⅰ.本報告の背景

 本報告はリハビリテーション従事者(以下,リハビリ職)における離職要因を先行文献から考察することを目的とする.

 離職は厚生労働省により,「常用労働者のうち,事業所を退職したり,解雇された者をいい,他企業への出向者・出向復帰者を含み,同一企業内の他事業所への転出者を除く」と定義されており1),本報告もこの定義を採用した.自身の専門とする職業を変えること,つまりリハビリ職から他職種への転職と,離職は異なることとした.本報告では,リハビリ職とは理学療法士,作業療法士,言語聴覚士の3職種を指すこととする.

 離職は,企業に対し,採用人材コストの増加と,熟練労働者減少による生産性低下をもたらすだけではなく2),企業文化,倫理観,現場のモラル,士気,連帯意識,チームワークなどの組織資産の流出にも繋がる3)とされている.

 医療・福祉産業における離職率は,厚生労働省による平成25年度の調査では,宿泊・飲食サービス産業と生活関連サービス・娯楽産業についで3番目に位置したと報告されており4),離職率は比較的高い業種であると言える.

 看護師やソーシャルワーカーに関する離職の報告は散見する5)6)が,リハビリ職に関する報告はほとんど散見しない.

リハビリ職における数少ない報告である,2010年に理学療法士協会が実施した女性理学療法士の就労状況調査7)では理学療法士協会員全体の離職率は3.25%,既婚者の離職率は7.13%,未婚者の離職率は0.3%であり,離職率は低いと報告されている.しかし,リハビリ職に限らず医療専門職は,高齢化の進展,医療費削減を目的とした在院日数の短縮などの昨今の社会的要請から,そのニーズが高まっていると言え,組織にとっては貴重な人材を組織に留まらせることは重要である.本報告は他職種の離職状況や,離職に関する要因を踏まえ,リハビリ職の離職要因を組織コミットメントの概念用いて検討することを目的とする.


Ⅱ.本論

williams&hazar(1986)によると,組織コミットメントは離職を予想できる因子とされており,本報告では組織コミットメントに影響を与える因子(独立変数Ⅰ),組織コミットメント(従属変数Ⅰ,独立変数Ⅱ),離職意思または定着意思(従属変数Ⅱ)という因果モデルで離職要因について検討していく.

組織コミットメントは組織成員を組織に留めることをあらわす概念で,Allen&meyer(1990)は組織コミットメントを,組織に対する愛着を意味する感情的コミットメント,経済的・社会的コストに関わる存続的(功利的)コミットメント,理屈抜きで組織にはコミットすべきであるという規範的コミットメントの3次元であると説明している.

山口らは6)医療ソーシャルワーカーにおいて,組織コミットメントと離職意図との間に負の関連を認めたとの報告し,また少し特異ではあるが,救命救急センター勤務の看護師を対象とした研究8)でも離職願望の高い者ほど組織コミットメントが低いと報告されている.以上より,同じ医療専門職であるリハビリ職においても組織コミットメントを用いて離職要因について検討することは妥当であると考える.

ここまでで組織コミットメントと離職の関係について述べた.続いて組織コミットメントに影響を与える要因について述べていく.

平川らによる医師の組織コミットメント・キャリアコミットメントに関する実証分析9)では,キャリアコミットメントが高くなると,感情的コミットメントは高くなるが,功利的コミットメントは高くならないと報告している.キャリアコミットメントとはBlau(1985)によって「専門を含めた,自分の職業への態度」だとされている.平川らは考察で,自身のキャリアに対する追求を支援してくれた組織に対して愛着は形成されるが,専門職は職場を変えることによりスキルや技能はゼロにはならないため,組織を去ることで失われる経済的・社会的コストに関連する功利的コミットメントは,高くならなかったと考察している.つまり医療専門職の離職防止には存続的コミットメントではなく,感情的コミットメントをどう育んで行くかが重要であることを示唆している.また上田らも医療専門職を対象とした研究で,同様の報告をしている10)

また次に,組織コミットメントとの直接的な関係が示された要因ではないが,組織コミットメントに影響を与えるであろう要因について記述する.

公益社団法人看護協会(以下看護協会)による「2014年 病院における看護職員需要状況調査(速報)」11)において,小規模病院にて離職率が高かったと報告されており,要因として処遇や教育体制などの影響が考察されている.

また先にも挙げた女性理学療法士の就労状況調査5)では,常勤で働くためには職場による協力が重要とされており,看護師と同様,女性理学療法士においても福利厚生を含めた処遇の充実が離職防止に役立つ可能性を示唆する.しかし男性理学療法士における福利厚生が離職に与える影響については明確にされていない.

 また介護老人福祉施設における研究では,看護職と介護職の離職の要因として職場におけるトップダウン式の管理方法や上司との人間関係が離職意図につながると報告しており12),リハビリ職においても同様の傾向があると推測される.

 以上より,リハビリ職において組織コミットメントに影響を与える要因としては,キャリア形成に対する支援,福利厚生などの処遇や,管理を含めた組織運営方法,上司を含めた人間関係が挙げられた.


Ⅲ.結語

 本報告はリハビリ職における離職要因について組織コミットメントを用いて考察した.医療専門職についても組織コミットメントを用いて離職意図を検討することは妥当であることが示された.また組織コミットメントに影響を与える因子としてキャリア形成支援,教育体制の整備,福利厚生の充実,人間関係,職場の管理体制が挙げられた.しかし本報告で示した組織コミットメントに影響を与える可能性のある因子は一部であり,影響を与える因子とコミットメントと離職意図については,今後詳細に調べていく必要があるだろう.

 これまで述べた報告は女性を対象としたものが中心であり,男性も対象に含めた実証研究が不足していることが本報告の限界である.

リハビリ職における離職に関する報告は,あまりに少ないため,今後更なる研究が進められることが期待される.


引用文献・参考文献

1)厚生労働省,2015,「雇用動向調査:調査の結果,用語の解説」,http://www.mhlm.co.jp/toukei/list9-23-1b.html#link01(2015年5月31日アクセス

2)(労働省 1999年「平成11年版労働経済の分析」www2.mhlw.go.jp/info/hakusyo/990702/990702-0-0.htm(2015年5月31日アクセス)

3)上田和勇,2010年,「現代企業経営におけるソーシャルキャピタルの重要性」,『社会関係資本研究論』第1号,13-29

4)厚生労働省2014年 「平成25年度雇用動向調査の概況」,http://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/14-2/kekka.html(2015年5月30日アクセス)

5)難波ほか,2009,「看護趾の組織・職務特性と組織コミットメントおよび離職意向の関連」,『日保学誌』,vol.12 No.1,16-24

6)山口麻衣ほか,2014年,「医療ソーシャルワーカーの組織コミットメントと離職意図との関連」,『社会福祉学』,第55巻第2号,1-10

7)社団法人 日本理学療法士協会調査部・福利厚生部・女性理学療法士の会,2010年,「2010年女性理学療法士就労環境調査結果」,www.japanpt.or.jp/upload/japanpt/obj/files/woman20102.pdf(2015年5月31日アクセス)

8)島原真紀子ほか,2008年,「救命救急センター看護師の離職願望と職務満足,

組織コミットメントとの関係」,『国際医療福祉大学紀要』第13 巻2 号 16-24.

9)平川紀代美ほか,2014,「医師の組織コミットメント・キャリアコミットメント・職務満足に関する実証分析」『商大ビジネスレビュー』,249-265

10)上田治ほか,2014年,「医療専門職におけるコミットメントと職場継続意志の関係」,『商大ビジネスレビュー』,267-279

11)公益社団法人日本看護協会,「2014年病院における看護職員需給状況調査」www.nurse.or.jp/up_pdf/20150331145508_f.pdf(2015年5月31日アクセス)

12)小木曽加奈子ほか,2010年,「介護老人保健施設におけるケアスタッフの仕事全体の満足度・転職・離職の要因」,『社会福祉学』第51巻第3号113-118


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10月25日には、第3回学術集会も予定しています。

沢山の参加をお待ちしています!

コメント: 2
  • #2

    運営スタッフ (木曜日, 27 12月 2018 12:35)

    コメントありがとうございます。
    疑問に対して、本コラムを執筆した田崎より返答させていただきます。

    日本のリハビリテーション(教育)に果たして生態学的妥当性があるのかという疑問についてですが、私はこの疑問に対する適切な返答を持ち合わせていません。
    理由は私がカリキュラムやその効果検証に対して十分な情報を持ち得ていないからです。
    期待に応えることが出来ず申し訳ありません。

    ただPT・OTの養成カリキュラムについては2020年より改定されるため、行政や職能団体としても現在のカリキュラムでは良しとは思っておらず、改善を進めたいと考えているとは思われます。

    本レポートに関して申し上げれば、「(医師に関して)自身のキャリアに対する追求を支援してくれた組織に対して愛着は形成される」との報告はありますが、卒前教育・卒後教育の不備が組織に対するコミットメントを低下させるとの報告はありません。離職率改善のために教育の改善をすることが妥当ではない可能性もありますので、ご注意いただければ幸いです。

    もし疑問が解決されなければ、その他の運営スタッフにて対応させていただきます。
    どうぞ宜しくお願い致します。

  • #1

    石井篤 (月曜日, 24 12月 2018 15:51)

    400床弱の病院でリハ科(リハ関連150床)の責任者をしている者です。昨今、回復期病棟などで大量採用をしつつ、大量離職の現状があるように感じています。
    あくまで個人の印象ですが、短期間での配置転換、指導者数を含めた卒後教育体制の不備などが原因ではないかと考えています。養成校が大量に認可され、学生の質の低下が言われていますが、既卒者もその傾向を抱えたまま仕事をしているように思います。
    日本のリハビリテーションに果たして生態学的妥当性があるのかどうか?このままの卒前、卒後教育のカリキュラムでいいのかどうか、疑問を解決していただければ幸いです。

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