コメディカル組織運営研究会
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「学習する組織」と5つのディシプリン
わたしが常日頃より思うことのひとつに,「個人で成し遂げられることの限界」があります.リハビリテーション医療の提供は担当制を用いることが多いため,治療の技術を磨き,目の前の患者さんに対して成果をあげる,ということは理解しやすいですし,もちろん,患者さんの身体機能,ADLやQOLの回復に寄与することがリハビリテーションスタッフの大命題であることは疑いの余地がありません.
一方で,医療現場全体のオペレーションは複雑化しています.ひとりの患者に対して多くの専門職が関わり(加えて,患者さんの背景も複雑化しているケースが少なくありません),それがひとつの医療機関のなかでは完結せずに地域全体の連携として広がるなか,たとえ個人がどんなに高い能力を有していたとしても,リハビリテーションスタッフひとりの力でなし得ることは微々たるものです.
そんな個人では成し遂げられないことを可能とするため,「組織」が存在すると考えられます.しかし,高い専門性を有した人たちをまとめるときに,単純に指示命令系統を具体化しただけのコントロールを基盤とするような組織では,おそらく結果を残せる組織になりえません.そこで参考になるのが,「学習する組織」という概念です.ピーター・M・センゲ(Peter.M.Senge)著「学習する組織-システム思考で未来を創造する-(The Fifth Discipline – The Art and Practice of The Learning Organization)」の中には,高度専門職者集団としての組織のありようについて,多くの示唆が記されています.
本書において「学習する組織」とは,「人々が絶えず,心から望んでいる結果を生み出す能力を拡大させる組織であり,新しい発展的な思考パターンが育まれる組織,共に抱く志が解放される組織,共に学習する方法を人々が継続的に学んでいる組織(p34)」と定義されています.そのなかで,真に学習することができ,自ら最高の志を実現する能力を継続的に高めることができる組織を築きあげるための5つの要素,ディシプリン(discipline,あるスキルや能力を手に入れるための発達上の経路)を提示しています.
この5つのディシプリンとは,システム思考(パターンの全体を明らかにして,それを効果的に変える方法を見つけるための概念的枠組み),自己マイスタリー(継続的に私たち個人のビジョンを明確にし,それを深めることであり,エネルギーを集中させること,忍耐力を身につけること,そして,現実を客観的に見ること),メンタル・モデル(私たちがどのように世界を理解し,どのように行動するかに影響を及ぼす,深くしみ込んだ前提,一般概念であり,あるいは想像やイメージ),共有ビジョン(組織全体で深く共有されるようになる目標や価値観や使命,また作りだそうとする未来の共通像を掲げる力),チーム学習(対話によりチームのメンバーが,前提を保留して本当の意味で「共に考える」能力)であり,ひとつひとつが不可欠な要素であるとされています.
書籍としては大変厚いものですが,新しいメンバーを迎える4月に自分が属している組織について考えるいい機会になると思いますので,ぜひご一読を.
2015年4月8日 Y・M
ピーター・M・セング著,枝廣淳子他訳
「学習する組織 システム思考で未来を創造する」,英治出版,2011
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