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no.126「コンピテンシーに基づいた新人教育の提案」

医学歯学教育では、ここ10年でコンピテンシー基盤型教育(またはアウトカム基盤型教育)にパラダイムシフトしたと言われる。従来型の教育は、履修主義とも呼ばれるプロセス重視型教育であり、良い教育を施せばより良い医療者(医師・理学療法士等)になるという考えで行われてきた。職場の新人教育であれば年間の計画を立てる教育担当者が「このような事を学んで欲しい」といった項目を上げ、それを得意とする職員が講義・実技練習等行う事になる。この方法は学んで欲しい知識・経験を漏れが無く伝えることは可能であるが、最終的にどのような医療者に成長したかを評価する事が難しいという欠点がある。

 

コンピテンシー基盤型教育ではまずは「あるべき姿」であるコンピテンシーを示し、それを達成するために必要な教育を行う教育方略である。全ての新人は入職時同じ能力を持っているわけではないし、同じ学習・経験をしたとしても得られる能力は異なる事が通常である。そのためコンピテンシーに合わせて日常的・定期的に能力を評価し、その新人に対して必要な学習や経験を追加していくように進めていく。部門の管理者や教育責任者はその新人のコンピテンシーに説明責任を持ち、質を保証することになる。

 

医師・歯科医師における新人教育は公的な制度としての初期研修という形式をとっており、決められた期間内(医師は2年・歯科医師は1年)に経験すべき定められコンピテンシーを設定されている。しかし、理学療法・作業療法士等のように公的な新人教育(初期研修等)が存在しない職種の場合は、職場の違いにより経験できる内容の差が大きく、現状では統一化されたコンピテンシーを設定する事は難しい。そのため、私自身の考えとしては、各職場でのコンピテンシーを設定する事が有用と考えている。

 

具体的な方法として、まずは教育期間(研修期間)を定めると良い。専門職の教育は生涯続くものであるため期間を決めない場合は際限なく高い能力を求めてしまいがちになる。ある程度“自律”して働けるようになる2年や3年くらいに設定すると良いと私は考える。次に具体的にコンピテンシーを選定する。教育責任者や実際に指導している指導者等幅広い人の意見を求め「当院(当グループ)におけるあるべき姿」を検討すると良い。急性期の総合病院と整形外来の診療所では、そもそも経験できる内容が異なるため、施設毎における独自的なコンピテンシーになると思われる。次にそのコンピテンシーの獲得状況を確認できる評価を検討する。合否を決めるような総括的評価ではなく、新人に成長を促せるような形成的評価であると良い。指導者はそのように日常的・定期的な評価の中からコンピテンシーを獲得するために必要な学習や経験を促すことになる。

 

最後に、これも私自身の考えになるが、コンピテンシー設定し公開する事はリクルートにもつながると考える。その職場の新人が設定されたコンピテンシーを獲得する事がコミットされるものになるため、就職活動をする学生にとっては「この施設に就職しある程度の経験を積めばこのような能力を獲得できる」と認識するだろう。今後理学療法士の活躍する領域はさらに拡大していくはずであり、キャリアデザインを意識する学生・新人が増える事を考えるとこのような取り組みは理学療法の発展に貢献できると思われる。ぜひ一度、皆さんの施設でも「コンピテンシー」を設定する事から始めてみてはどうでしょうか。

2024年5月8日 

 J.Y

 

参考文献

全国医学部長病院長会議:医学教育モデル・コア・コンピテンシー.2017

https://www.ajmc.jp/pdf/AJMC311-6.pdf

 

大西 弘高:学習者評価とコンピテンシー基盤型教育.医療職の能力開発,5(1), 2017

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